小林喜光(こばやし よしみつ)三菱ケミカルHDの会長です。
小林喜光氏は、日本はバブル経済崩壊後、世界に敗北したまま、負けを認め、変革しないといけないのに「ゆでガエル」でいると強烈な危機感を主張しています。
ゆでガエルとは、カエルは熱いお湯に入れれば慌てて飛び出ますが、長い時間を掛けて少しづつ温度を上げていくと気づかずに茹ってしまうという例えです。
多くの日本人はその危機をリアルに実感していないと危惧しています。
小林喜光が強烈に訴える、日本の危機や世界の危機とはなんなのでしょうか?小林喜光の名言と世界の現状もあわせて調べてみました。
世界の現状
おそらく、この問題はみんな知らないはずの無いことですが、地球温暖化、資源枯渇の問題だけに焦点をおいても、もはや地球は限界の状況にあります。
地球温暖化については寒冷化しているという説ももちろんあります。
化石燃料はおそらくこの先200年の間に、確実に枯渇するだろうと言われています。
たぶん実質的な枯渇はもっと早いとも一説ではいわれています。
石油を現在のコストで採掘して、1バレル70~80ドルのレベルを維持できるのは、この先せいぜい50年だろうと言われています。
レアメタル一つとっても、埋蔵量があと20年ほどしかないものもあります。こうした資源の枯渇が経済活動にどれほどのインパクトを与えるかは計り知れません。
みなさんは、その問題は自分が解決しなくても誰かがやってくれると思っていませんか?
ですが、今と同等かそれ以上の衣食住のレベルをこの先に実現したいと思っているのなら、現在のイノベーション・レベルでは到底間に合わないというのが現状です。
インドや中国、それにアフリカなどの経済も発展していき、これまで先進国のみが享受してきたのと同等の豊かさを、それらの国々も手にすることになれば、当然この危機的状況は一層加速するのです。
それなのに、多くの人はこの未曾有の危機をリアルに実感していません。
最大の原因は、資本主義の変質にあるのだろうと小林喜光氏は語っています。
金融工学の発達で、資本主義はリアルに物をつくって付加価値を生み出す、という本来の資本主義の営みから、金が金を生むシステムへと変質して行きました。
ひたすら資本効率を追求し、ROA(自己資本利益率)、ROE(総資産利益率)といった指標ばかりが重視され、株主の利益が最優先されています。
MBA(経営学修士)ベースとでも言おうか、アメリカでMBA取得などと経歴に書いてある、金融知識や財務知識を備えたマネジメントばかりが幅を利かせています。
自分たちさえ儲かれば、世界はどうなってもよいという意識が世界中に蔓延しています。
そして貨幣は、重量を持った硬貨から、ネット上で取引されるマネーへと変質していき、もはや数字だけの、実物から遠く乖離したバーチャルな存在になり果ててしまいました。
こうしてバーチャルな感覚がはびこることで、人々は危機を実感としてとらえる事が出来なくなったのです。
そして利己主義が蔓延した結果、CO2の削減という人類喫緊の課題に対しても、キャップ・アンド・トレード(排出権取引を容認する削減方法)という、本質から外れた対策がとられている始末です。
バーチャル化したマネーと同じように、CO2の売買というコンセプトだけが独り歩きをしているのです。
本当に重要なのは、地球上からどうやったらCO2を削減できるかという議論ではないのか。
真剣に議論すれば、CO2を削減するには、排出量を削減するだけでなく、炭酸ガスを吸収する仕組みを強化すればよいということに気づくはずです。
マネーのためのCO2だと、世界の未来に意味のある話とは思えなくなってしまいます。
新炭素社会のはじまり
新炭素社会が始まるのだと、小林喜光氏はことあるごとに言っています。
三菱ケミカルHDは化学を生業とする会社なのですが、化学会社とは、錬金術ならぬ、錬炭素術を持った「カーボン」の細工師”を目指しています。
化学はむしろ炭素を利用することによって新しいモノを生み出す可能性を数多く秘めているのだと小林喜光氏は語っています。
今の様な快適な生活を維持し、さらに向上させようと思うなら、人類は動物と植物の関係のように、CO2を連鎖的に変換していくような産業構造への転換を図ることが急務なのです。
さらには、無から有を生むようなテクノロジーを生み出すためのイノベーションをも起こさなくてはならないでしょう。
ですからそういう意味においては、MBAベースのマネジメントはすでに役割を終えたのではないでしょうか。
MOT(技術経営)ももはや時代遅れと言えます。
これからはMOS(マネジメント・オブ・サステナビリティ)の時代だと、小林喜光氏は考えています。
サステナビリティとは、広く環境・社会・経済の3つの観点から、この世の中を持続可能にしていくという考え方のことです。
効率の追求とか、利己的な利益の追求とかを目的とする経営ではなく、地球、社会、会社、そして個々の人間の永続的な存続や共存を第一に考えた経営こそが、これからの企業にとってもっとも重要なのだと小林喜光氏は語っています。
ですが、皆がこれに気付いて、誰もが変わらなくてはならない大転換の時代なのに、変わろうとしない、変われない人々が数多く存在すると小林喜光氏は嘆いています。
国連が持続可能な開発目標(SDGs)を掲げ、世界の投資家もESG(環境・社会・ガバナンス)重視を鮮明にするなか、日本企業はどんな経営を目指すべきなのでしょうか?
三菱ケミカルHDの取り組み
化学会社は事業分野が非常に幅広いのです。
小林喜光氏は社長就任にあたり、我々は何のためにこの会社に集まっているのか、「御旗」のようなものを掲げる必要があると考えました。
ところが就任直後に、傘下の事業会社の工場火災事故や、独禁法違反の疑いでの立ち入り調査等が重なって、会社は危機的な状況に陥いりました。
責任を負わなければならないのはもちろんのことだが、同時に危機をチャンスに変えなければなりませんでした。
そこで、人、社会、そして地球の心地よさがずっと続いていくことを意味する「KAITEKI」というコンセプトを打ち出しました。
具体的にはサステナビリティー(広く環境・社会・経済の3つの観点からこの世の中を持続可能にしていくという考え方)、ヘルス(健康)、コンフォート(快適)の、
3つを企業活動の判断基準と定めて、これらに合致しない製品はつくらないし、売らないことを決めました。
二酸化炭素(CO2)削減につながるリチウムイオン電池材料ですとか、自動車を軽量化する炭素繊維複合材料、それに再生医療などのヘルスケアビジネスなどは、三菱ケミカルHDが注力している事業の一例です。
また最近話題となっている「プラスチックごみ問題」への対応においても、バイオ由来の生分解性プラスチック事業を展開しています。
原料の100%植物由来化や、海洋分解性の高い製品の開発にも取り組んでいます。
2011年には、企業価値を測る3つの基軸を
(1)資本の効率化を重視する経営(Management of Economics=MOE)
(2)イノベーション創出を追求する経営(Management of Technology=MOT)
(3)サステナビリティーの向上をめざす経営(Management of Sustainability=MOS)
を定めて、この3つを一体的に実践し、そこから生み出される価値の最大化を目指す「KAITEKI経営」をスタートしました。
最初はESGの概念が日本ではまだ浸透していなくて、経営陣も試行錯誤の段階でした。
社員の中には「社長は何を寝ぼけたことを言っているのか」という人もいたようです。
メディアでも小林喜光氏のことを「ドンキホーテ」と呼ぶこともあったのですが、しつこく重要性を説いていきました。
社内に浸透させる方法は、まずは現場で働いている社員に、自分たちが実現できるKAITEKIを考えてもらいます。
そしてそれを目標にして、達成したら表彰するというシステムです。
それに本社の部長クラスを「伝道師」として支社・工場やグループ会社などに派遣して、理念を広めてもらいました。
小林喜光氏もメディアを通じて積極的に発信し、2011年には『地球と共存する経営』という著書も出しました。
こうした活動を通して、だんだん社員も本気で受け止めてくれるようになったのです。
日本の課題
いま、日本企業を取り巻く環境は厳しさを増しています。
小林喜光氏は毎年1月に、スイスで開かれる世界経済フォーラム(ダボス会議)に参加しているのですが、
ここ数年で一番印象に残ったのは「ホモ・デウス」の著者であるユヴァル・ノア・ハラリ氏の2018年1月の講演でした。
AI(人工知能)やデジタル技術の飛躍的な進化によって、民主主義に対抗する、資本主義に対するデータイズム(データ覇権主義)が急速に力を付けているという話です。
それはやはり中国やインドが物凄い勢いで力を付けているからです。
中国やインドからアメリカに渡ってノウハウを付けた大勢の留学生が母国に戻って、AIやロボット、宇宙、バイオなどあらゆる技術で覇権を目指しています。
実際、すでに日本は論文の数でも質でも中国に劣り始めていますし、強いといわれたものづくりでもシェアを落とす分野が増えているのです。
デジタル化においても、人材の多様性と流動性においても、それにエリートの知的水準などにおいても、今や日本は圧倒的に劣っていることを自覚しなければなりません。
それを認めて受け入れ、そして奮起することがすべてのスタートです。
ここに来て、最近ではESG(環境・社会・ガバナンス)投資やSDGs(持続可能な開発目標)への関心が急速に高まっています。
その背景には3つの大きな流れがあるようです。
1つ目は、企業と投資家の間で循環していた資金の流れ(インベストメント・チェーン)に、環境保護など社会からの期待や要請が入ってきたことです。
社会的課題の解決に金融・投資セクターからの参加が求められるようになってきたのです。
2つ目は企業価値の決定要因が工場や店舗といった有形資産から、知的財産とか膨大なデータといった無形資産に転換していることです。
無形資産は従来からの財務情報だけでは把握するのに限界があります。
非財務情報への注目が高まっています。
3つ目は長期投資家の存在感が市場で高まっていることです。
短期主義への反省から、長期投資家はその企業のビジネスモデルが長期的に持続可能なものなのか、様々な視点からリスクを減らそうと考えます。
ちなみに、E環境(Environment)、S社会(Social)、Gガバナンス(Governance)関係を見た場合、重要なのはやはりGガバナンス(統治、支配、管理)です。
環境や社会のあり方を設計し、制御する規律意識と能力をガバナンスが持つべきだろうということです。
SDGs(持続可能な開発目標)は全く新しいムーブメントを起こす潜在力を持っているかもしれません。
今や学校でも教えられていますから、物心ついたときにはSDGsが身近にある「SDGsネーティブ」が着実に増えていくのです。
さらに、こうした教育を受けた大学生が、すでに就職活動をしてきてますから、企業を選ぶものさしの一つになりつつあります。
今後の企業経営では、ROEに代表される資本生産性を高めて、対話を通して企業価値を創造することはもとより、ESGやSDGs推進による持続可能な中長期経営の2つの両立することが求められることになるでしょう。
ROEは短期主義に陥る可能性がありますし、ESGは資本生産性が低くなっても環境に配慮しているのだからといった隠れみのに使われる懸念もあります。
今後は、良質なROEに加えて、良質なESGを融合した「ROESG経営」こそが望ましいのではないでしょうか。
人手不足と外国人やシニア雇用をどう考えるのか
人手不足の問題はますます深刻になります。まず外国人の受け入れをどうするかですが、日本は受け入れる以上は覚悟を決めて社会保障、健康、給与対応をしないとならないでしょう。
しかし、移民政策をしたよその国の現状をみてみると、慎重な対応が求められると思っています。
もう一つは業務のAIやロボット化を前提に、制度設計することも重要ですが、これには時間と初期投資が掛かります。
一方、シニアは将来的に75、80歳まで働くことも考えられます。
給与の分配はシニアも含めて労働生産性や能力の高い人を厚くすることが競争上、重要になってきます。
つまり、能力を反映した報酬にすれば年齢が高くても働けるわけです。
外国人であろうが、能力があれば同じ報酬で良いとするという考えです。
今後、外国人の人材獲得は間違いなく、韓国や他の国との競争になります。
ですが、その対策は進んでいません。
実際は、定年後は天下りでも無ければ、同じ仕事内容でも報酬が極端に下がる契約社員が相場です。
外国人の人材確保もきちんとした議論さえ持ち上がらないという有様で、外国人研修制度を雇用側が悪用して実習生に仕事を教えずに、安価な作業員として使っているということも後を絶ちません。
小林喜光の名言
・私が国際会議で最近とても実感しているのは日本人の交渉能力の貧弱さです。
欧米人に比べて圧倒的に弱い。
日本の教育課程にディベート(議論)の訓練がほとんど無いというのは、日本として大きな問題だと思います。
・会議は「何を、誰が、いつまでに」を決めます。このアクションプランを決めさえすればいい場です。これが曖昧だから長引くのです。
・誰もが変わらなくてはいけないという大転換の時代に、変わろうとしない、変われない人々が数多く存在しています。
なぜ変われないのでしょうか?それは、なぜ生きるのかということを、真剣に問うていないからです。
生きることに真剣に向き合えば、人間はおのずと変わっていく存在なのです。
・人は、いくつになっても「怒れる人間」でないとダメだと思います。
怒りや悔しさがあるから変えようとして、変わろうとするのです。
・化学産業は事業の定義はありません。何を手がけてもいいのです。
その分「何を捨て、何を選ぶ」のかが経営の最重要テーマとなります。
・イノベーションに偶然はありません。セレンディピティー(偶然的な発見)という議論が通用するのは超基礎的な研究組織くらいでしょう。
天才がいれば話は別なのですが、当社にはいても秀才程度です。その秀才にセレンディピティーを認めて自由に研究させると、永遠に成果が出ない可能性だってあるわけです。
・イスラエルのヘブライ大学に留学していた時代、何度か砂漠に足を運びました。そこで経験した全身を貫くような衝撃は「この世には何もないということがある」という感覚でした。
何もない砂漠の中に立っていると、自分の心臓の鼓動を明瞭に感じるのです。自己の存在を非常に重く、濃密に感じました。
生きるということはそれだけで素晴らしいことだと感じました。
満員電車に揺られて何百人の中の一人である状態では、絶対に受け取ることのできない感覚です。
・私がこの時代に求める社員像とは、目の前の存在に対する情緒的な優しさを持った「羊のような人間」ではありません。
怒りの感情と同時に、論理的思考に根ざしたようなグローバルな愛、ジェネラルな愛にあふれたような「あぶないやつ」なのです。
小林喜光の生い立ち
1946年11月18日、山梨県南アルプス生まれ。
高校生の時に「人は何のために生きるのか」という人間の永遠のテーマにぶち当たり、いくら考えても答えが出ないので、化学という結論がはっきり出る世界の方が楽かもしれないと考えて理科系の道に進みます。
1971年東京大学大学院理学系研究科相関理化学修士課程修了
大学生になると高校の時にぶちあたったテーマに再び取りつかれました。
そして、ユダヤの人はなんで優秀なのか?なんで短期間でイスラエルという国が造れたのかが知りたくなっていたところに、大学の掲示板にイスラエルのヘブライ大学の案内が貼られていました。
当時は小林喜光氏が専攻していた放射線科の分野でヘブライ大学は、最先端の研究を行っていたということもあって周りの反対を退け応募したのです。
1972年ヘブライ大学(イスラエル)物理化学科(国費留学)
1973年ピサ大学化学科
1974年三菱化成工業(現:三菱化学)入社。
1975年 東京大学理学博士号取得
1996年 三菱化学情報電子カンパニー記憶材料事業部長及び三菱化学メディア取締役社長兼務
2005年 三菱化学常務執行役員兼 三菱化学科学技術研究センター取締役社長
2006年 三菱ケミカルホールディングス取締役兼三菱化学常務執行役員兼三菱化学科学技術研究センター取締役社長
2007年 三菱ケミカルホールディングス取締役社長兼三菱化学取締役社長
2009年 三菱ケミカルホールディングス取締役社長兼三菱化学取締役社長兼地球快適化インスティテュート取締役社長
2011年 経済同友会(日本の企業者の団体で「経済三団体」の一つ)副代表幹事就任、役員報酬1億100万円
2012年 三菱ケミカルホールディングス取締役社長兼三菱化学取締役会長兼地球快適化インスティテュート取締役社長
東京電力及びジャパンディスプレイ社外取締役就任(~15年)、石油化学工業協会会長就任(~14年)
2015年 経済同友会代表幹事就任、三菱ケミカルホールディングス代表取締役会長、産業競争力懇談会理事長(~18年)、東芝社外取締役
2016年 未来投資会議構造改革徹底推進会合会長(企業関連制度・産業構造改革・イノベーション)
2018年 総合科学技術・イノベーション会議議員、日本銀行参与
2019年 経済同友会代表幹事を退任。カーボンリサイクルファンド会長、規制改革推進会議議長
小林喜光まとめ
今の日本人は「ゆでガエル」だという危機感にはその通りだなと思いますね。
自分で考えないように仕向けられてるとも思います。
真剣に考えられると困る人がいるからということもいますね。
大事な事を目隠しして考えないようにしている感じだと思います。
今の若者たちの老後もそうです。
ほんとうは、学校などで老後の準備の重要さも教えるべきです。
結婚して、20代で家を買って、何十年も掛けてローンを組んで支払っていますが、それが本当に不動産としての価値はあるのでしょうか?
それでいて老後の対策は何もしていなかったりして。
小林喜光氏が訴えるように、今考えて行動に起こさないとどうにもならなくなるのに、どうするのでしょう。
プラスチックのストローをやめるぐらいで話題になる世の中は変だといえます。
リサイクルで回収されている発泡スチロールのトレイが、実際はどうなっているのかという現実。
業者の話を昔聞いたことがあります。
世の中の流れで、しょうがなくてリサイクルとして受け取りますが、実際はリサイクルせずに企業ゴミとして出しているとか。
本当にリサイクルするにはそれなりの設備が必要になって経費がかかるからだとか。これは極々一部のことなのかもしれません。
しかし、そのような実態にはだれも目を向けようとしないで、自分はしっかりとリサイクルゴミに出しているという自己満足で終わってしまっていないでしょうか。
全てがそうとは言えませんが、そういう見えない現実もあることを私たちはなんとなく予想しているはずです。
でも、見ないふりをしているのです。
その結果、未来はかなりとんでもないことになってしまうのです。
その現実をある日、突きつけられる時が来るのかも知れないのです。
危機感を持って生きていきたいものですね。
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